後継者が決まっても、営業は引き継がれない|カーナープロダクト

  • tell 03-3262-4420
  • メールでのお問い合わせ



HOME > 調査研究 > 営業論考 > 後継者が決まっても、営業は引き継がれない

後継者が決まっても、営業は引き継がれない

事業承継の準備は、多くの場合、株式から始まり、次いで税務、組織へと進みます。相談先も税理士、金融機関、事業承継・引継ぎ支援センターと定まっており、受け皿は整っています。ところが、その一連の議題に「営業」が含まれることは、ほとんどありません。

株式や不動産は移転できますが、先代が長い時間をかけて築いた顧客との関係と、売り方そのものは移転できません。しかも多くの場合、それに気づくのは代が替わった後です。

承継の準備で、営業だけが議題に上らない

当社が承継期の企業を見てきた中で共通しているのは、経営者ご本人が「営業は自分がやってきたことだから、説明できる」と考えておられる点です。実際に伺うと、多くの方が説明されますが、その内容は結果の説明にとどまります。

「あの会社は、先代の社長とうちの社長が同郷でね」「何度も足を運んだから」「困ったときに助けたことがあって」。いずれも事実ですが、後継者がそれを再現することはできません。後継者は同郷ではなく、助けた過去もないためです。

これは後継者の能力の問題ではありません。帝国データバンクの分析では、2025年に就任した後任代表者のうち、業界経験が10年以上ある人は83.9%に上ります。その一方で、経営経験が「3年未満」の人が69.6%を占めます。業界には精通しているものの、経営としての判断を重ねるのはこれからという人が大半です。

引き継ぐべきものは、出来事そのものではなく、その出来事を生んだ判断です。どの場面で何を見て、どう動いたのかが言語化されないまま代が替わると、顧客は「相手が変わった」とだけ受け取ります。

数字が示しているのは「時間はある」ということ

はじめに、承継の現状を数字で確認します。帝国データバンクの『全国「後継者不在率」動向調査(2025年)』によれば、2025年に社長へ就任した経緯は、血縁によらない役員・社員を登用した「内部昇格」が36.1%、「同族承継」が32.3%でした。合わせて68.4%が、社内または親族という身近な人への承継です。外部からの承継は、M&Aほかが20.6%、外部招聘が7.6%にとどまります。事業承継ではM&Aが話題になることが多いものの、実際の主流は現在も内部への承継です。

次に、承継に要する時間です。2025年版中小企業白書は「事業承継に要する期間として、3年以上を要すると回答した割合が半数を超えており、10年以上を要すると回答した割合も少なくない」と記しています。内訳は、3〜5年が26.9%、6〜9年が13.8%、10年以上が11.2%です。

ただし、その時間を確保できない企業もあります。80代以上の経営者でも、22.2%が後継者を決めていません。さらに、一度決めた後継者候補が白紙に戻る「計画中止・取りやめ」の割合は、80代以上で4.7%と全年代で最も高くなっています。高齢になってからの承継ほど、途中で頓挫しやすい傾向がうかがえます。

これらの数字は、悲観的にも楽観的にも読むことができます。当社は、楽観的に読むべきであると考えております。移行に3年以上かかるということは、裏を返せば、手を打つ時間が3年あるということでもあります。営業の引き継ぎは1か月では終わりませんが、3年あれば十分に間に合います。

引き継げないのは、株式ではなく「選ばれている理由」

承継の際に起きることを、順を追って確認します。受注が先代の人脈で成立し、価格が先代の一存で決まっていた会社では、後継者が引き継いだ時点から商談の進み方が変わります。それまで即決であった案件で相見積もりを取られ、値引きを求められ、決裁が一段上の階層に上がるようになります。

顧客の側に悪意はありません。先代を信頼していたのであって、会社を信頼していたわけではなかったためです。しかもこの区別は、取引が続いている間は誰の目にも見えません。

この局面で多くの後継者は、関係によって得ていた受注を、価格などの条件で補おうとします。しかし、値引きで維持した取引は、次の更新時にさらに条件を引き下げられます。当社が価格転嫁54.2%時代の営業で述べたとおり、高い・安いは主観であり、比較の対象とされた時点で受注は難しくなります。

「その人にしかできない」のは、記録されていないから

「うちの営業は属人化している」と語られるとき、その理由は、あの人は特別である、才能が違う、というように個人の資質に求められることが多くあります。当社は、これとは異なる見方をしております。属人化とは、その人にしかできない状態を指します。そうなる原因は才能ではなく、判断が記録されていないことにあります。

順調に進む商談ほど、本人は無意識のうちに判断を下しています。相手の表情が変わった時点で話を止める、予算の話を先に出さない、決裁者の名前が出たところで資料を差し替える、といった判断です。こうした判断は本人に尋ねても言葉にならず、「なんとなく」という答えが返ってきます。

そのため、外から観察して取り出す必要があります。商談に同席し、記録を読み、進展した案件と停滞した案件を比較すると、本人も気づいていなかった規則性が見えてきます。それを手順として整理すれば、他の担当者も同じ道筋をたどれるようになります。ここまで進めて初めて、組織の力となります。

当社が延べ3,300名以上・600社を対象に行ってきた営業実態調査でも、成果の差は資質よりも行動の差に表れました。『トップセールスは4.1倍粘り強い』という書名は、その一例です。成果を資質ではなく行動として捉えることで、引き継げるものが明らかになります。

営業の属人化を測る、3つの質問

自社の営業がどの程度属人化しているかを測るには、まず次の3つの質問をご確認ください。

質問1 直近3年で取引が始まった主要な新規のお客さまは、誰が獲得したか。
「社長」という答えであれば、属人化しています。
質問2 社長が同席しない商談は、全体のどのくらいを占めるか。
3割に満たない場合、後継者が商談を担える状態にはありません。
質問3 自社が選ばれている理由を、社長以外の人が説明できるか。
説明できなければ、選ばれている理由が引き継がれていません。

3つのうち2つ以上が当てはまる場合、承継の際に売上が低下する可能性があります。この3問は大まかな目安にすぎませんが、営業の属人化が「測れるもの」であると分かる点に意味があります。測れると分かれば、対処の方法を検討できるようになります。

案件ごとの見極めを個人の力量に依存させない方法は、「営業の属人化から脱却する」で整理しております。

承継の切迫度と、営業の属人化

当社は、承継期の企業を2つの軸で整理しております。縦軸に承継の切迫度(社長の年齢と後継者の有無)、横軸に営業の属人化の度合いを置いたもので、これを営業承継マトリクスと呼んでいます。

最優先 承継が近く、売上が社長に結びついている状態です。放置すると、代替わりを機に主要顧客が離れます。
時限装置 承継まで時間はあるものの、営業は属人化している状態です。この段階で手を打てば間に合うため、支援の効果が最も大きい層です。
引き継げる 組織として受注できており、通常の承継準備で足ります。
安定 当面の懸念は小さく、定期的な確認で十分です。

縦軸は、ほとんどの経営者が把握しています。ご自身の年齢も、後継者の有無も分かっているためです。把握されていないのは、横軸のほうです。

さらに、最も注意を要するのは「最優先」ではなく「時限装置」の位置にある会社です。切迫していないため対応が後回しになり、営業が属人化したまま年月が経過し、気づいたときには「最優先」に移っています。手を打つのに最も適した時期が、対応のないまま過ぎてしまうのです。

3年あれば、間に合う

営業を引き継ぐ作業は、次の順序で進めます。まず、先代の商談に同席し、実際に効果を上げている打ち手を取り出します。次に、顧客が動いた時点、すなわち意思決定のきっかけを時系列で特定します。それを、後継者がたどれる商談プロセスと、話す順序の骨格として整理します。ここまでが1年目です。

2年目は、後継者が実際の商談で実践します。想定どおりに進まない箇所が必ず出てきますので、その箇所を修正します。同時に、先代の顧客ではなく後継者自身の顧客をつくる作業に入ります。引き継ぐだけでは、いずれ先細りになります。後継者が自身の型で新しい販路を開拓できるかどうかが、その先の30年を左右します。

3年目に、型を記録と管理の仕組みに組み込みます。人が替わっても営業が機能する状態にして、ようやく承継は完了します。

この作業は1か月では終わりません。しかし、承継に3年以上かかると答えた企業が約半数を占めるという事実は、この作業に充てられる時間が、実際には存在していることを意味します。不足しているのは時間ではなく、営業を議題に上げるという発想です。

事業承継の準備で、株式と税務が最初に議題となるのは当然のことです。期限があり、金額が大きく、誤ると取り返しがつかないためです。ただ、その点だけを整えて代を譲った会社が、数年後に主要顧客を失っている例を、当社は何度も見てまいりました。渡されたのは会社であって、売上ではなかったのです。

後継者が決まった後は、この売上は先代でなくても上がるのかを、あらためてご確認ください。

【出典】
(株)帝国データバンク『全国「後継者不在率」動向調査(2025年)』2025年11月21日公表(2025年の就任経緯は速報値)
中小企業庁『2025年版中小企業白書』コラム1-1-12
(株)帝国データバンク「事業承継に関する企業の意識調査」(2021年8月) ※承継に要する期間の内訳
中小企業庁「事業承継・M&A補助金(事業承継促進枠)」16次公募 広報資料(2026年9月)

この論考をもとにした資料をご用意しています

「営業承継マトリクス」と自己診断シートを収めた社内検討用の資料(PDF)を、登録いただいた方にお送りしています。会議でそのまま配布できる形式です。

資料のご請求はこちら / ご相談・お問い合わせ


▲ PAGETOP