「サービスを収益の柱にしたい」。こうしたご相談が、この数年で明らかに増えております。ストック型の収益を確保したい、新規事業を立ち上げる前に既存の部門で何ができるかを見極めたい、という問題意識は、すでに広く共有されています。
ただし、着手したものの取り組みが止まっている企業も見受けられます。技術者に提案を求めても動かない、提案は出るようになったものの最終的には価格の話に終わる、といった状況です。
当社が見てきた範囲では、取り組みが止まる箇所は決まっています。顧客の物差しに翻訳できていないか、顧客の予算の構造を把握していないかのいずれかです。本稿では、この二点を軸に整理します。
失っているものは、失注として記録されない
市場の規模から確認します。富士経済の調査によれば、設備機器40品目の保守メンテナンスサービスの国内市場は、2020年の2兆7,053億円から、2025年には2兆9,350億円へ拡大する見込みです。ただし、この数字には注意が必要です。計上されているのは外部へ発注された分に限られ、メーカーが自社で手がけている分は各社の売上高に含まれているため、実際の市場はこれより大きくなります。
もっとも、規模そのものは本稿の主題ではありません。問題は、この市場のうち自社が獲得できている割合を、多くの企業が把握していないことにあります。手を打たずにいる間にも、売上は社外へ流出します。純正部品は社外品に置き換わり、保守は地場のメンテナンス会社が引き受け、中古とリビルド(分解して新品同等に戻す再生)は独立系の業者が市場を形成しています。
この流出は、数字に表れません。新規商談を失えば失注として記録されますが、本来自社で受けられたはずの保守が他社へ流れても、どこにも計上されません。失注は記録に残りますが、商談にすら至らなかったものは、失ったという認識すら残りません。
測る方法はあります。客先で稼働している自社製品の台数と経過年数から、その設備群に年間いくらの保守需要が発生するはずかを試算し、そこに実際のサービス売上を当てはめます。この比率が、取りこぼしを金額で示します。多くの企業はこの分母を持っておらず、分母がなければ伸ばす余地も見えません。
サービス強化の第一歩が提案活動ではないのは、このためです。先に必要となるのは設置ベース(客先で稼働している自社製品の総体)の棚卸しです。どこに何台あるかを把握しないまま提案量だけを増やしても、成果が偶然に左右される運用にしかなりません。
設備総合効率の、どこに効くのか
提案が価格の話に終わる理由は、多くの場合、用いる言葉にあります。工場の保全部門はTPM(総合的生産保全)の枠組みで動いており、判断の物差しは設備総合効率です。これは時間稼働率×性能稼働率×良品率という三つの積で表されます。「故障が減ります」が稟議に載らないのは、この式のどこがどれだけ動くのかを示していないためです。
保守サービスの提案が動かせるのは、主に時間稼働率です。故障停止と段取り替えのロスがここに含まれます。性能稼働率(設計速度に対する実速度)と良品率は設備の仕様や工程条件に左右される部分が大きく、保守で動かせる幅は限られます。
この切り分けを曖昧にしたまま「生産性が上がります」と持ち込んでも、保全部門は動きません。保全部門は、三つのうちどれが動くのかを見ているためです。「3号ラインの月間停止時間は◯時間、うち突発故障が◯時間。定期交換に切り替えれば、このうち◯時間を計画停止へ移せます」。ここまで記述できれば、検討の対象になります。計画停止は生産計画に織り込めるため、突発停止とは損失の重みが大きく異なります。
もうひとつの物差しが、ライフサイクルコスト、つまり設備を導入してから廃棄するまでの総コストです。初期費用だけを並べれば、社外品や地場業者が優位に立ちます。純正部品と自社保守が優位に立てるのは、故障率と寿命を含めた総額で比較した場合に限られます。比較の基準を総額へ移せるかどうかが、値引き交渉から抜け出せるかどうかを左右します。
同じ工事でも、書き方で予算の財布が変わる
顧客の物差しで語れたとしても、次に課題となるのが予算です。予防保全には予算がつきます。設備を止めたくないというニーズが確かにあるためです。ただし保全予算の枠は決まっており、そこに収まらない規模の更新や改修は順番待ちになります。提案が適切であっても、枠に入らなければ通りません。
そこで重要になるのが、どの財布から支出するかです。同じ工事でも、目的の立て方によって別の予算から支出できる場合があります。
| 保全予算 | 故障を防ぎ、稼働を維持する。枠が決まっており、期中の増額は難しい。 |
|---|---|
| 環境・省エネ投資 | 消費電力やCO2排出の削減が目的なら、別枠で検討される。高効率機へのリプレースやインバータ化は、こちらで通ることがある。 |
| 安全・コンプライアンス | 法定点検や労働災害の防止に関わるものは、優先順位が上がる。 |
| 設備投資 | 能力増強や新製品対応と結びつけば、保全ではなく投資として扱われる。 |
会計上の区分も、実務では大きく影響します。修繕にかかった支出は、原状回復にとどまるものであれば修繕費として当期の費用になります。一方、設備の価値を高めたり使用可能期間を延ばしたりするものは資本的支出となり、資産に計上して減価償却することになります。
顧客にとって、この違いは小さくありません。今期の損益への影響が変わり、決裁の経路も変わるためです。同じレトロフィット(制御盤やインバータだけを入れ替える部分更新)でも、劣化した部品の交換として組むのか、能力向上を伴う改修として組むのかによって、社内での通り方が変わります。提案書の書き方が、顧客の社内手続きを左右します。この点を踏まえずに見積を提出している例は、実際に多く見受けられます。
※ 修繕費と資本的支出の判定には、金額や周期による取扱いを含め細かな基準があります。提案の際は、顧客の経理部門にご確認いただくよう一言添えるのが確実です。こちらで断定しないほうが、かえって信頼されます。
延命か更新かは、総額ではなく年あたりで比べる
設備には必ず終わりが訪れ、延命するのか、更新するのか、手放すのかを決める時期が来ます。この三択を顧客とともに決める立場を得られれば、次の新品も自社に残ります。保守契約は、次の新品の予約でもあります。
ところが、この比較を総額で行うと判断がつきません。300万円の延命工事と2,000万円の更新では、金額の桁が異なります。顧客は安価なほうを選び、3年後に再び同じ議論をすることになります。
比較すべきは年あたりのコストです。延命工事で何年延びるのか、更新した設備は何年使うのかを確かめ、それぞれの総コストをその年数で割ります。300万円で3年延びるなら年100万円、2,000万円で15年使えるなら年133万円です。この基準にそろえることで、比較は初めて意味を持ちます。
実務では、ここに停止損失の見込み、消費電力の差、保守費用の推移、更新後に不要となる部品在庫まで含めます。この試算を提示できるのは顧客ではなく、設備を納めた側です。試算を提示した企業が、次の更新でも声をかけられます。
判断の根拠として、もうひとつ使えるものがあります。補修用部品の供給年限です。各社が定める保有期間を過ぎれば、部品は手配できなくなるか、特注扱いで高額になります。「あと2年で標準供給が終わります」という事実は、脅しではなく計画の材料であり、早く伝えるほど、顧客は予算を組む時間を確保できます。この情報を持っているのも、納めた側に限られます。
ベースロード比率は、分子の定義で決まる
提案が積み上がると、収益の性質が変わります。当社はサービス収益を4つの段階で整理しております。
| 1 修理対応 | 依頼を受けてから訪問する。収益は単発で、価格の主導権は顧客側にある。 |
|---|---|
| 2 提案サービス | 訪問した機会に次を提案する。能動的な売上は、ここから生まれる。 |
| 3 予防保全 | 壊れる前に訪問する。顧客の停止損失を防ぐため、値引き交渉になりにくい。 |
| 4 保守契約 | 訪問する約束をあらかじめ売る。収益がストックに変わり、翌期の数字が読める。 |
段階を引き上げる鍵は、顧客と3〜5年の保全計画を共有することにあります。計画をともに立てると、単発だった修理が、予算に載った計画工事の連なりへ変わります。顧客の側も突発停止の不安と予算の不確実性が減るため、売り手と買い手の利害が一致する、数少ない領域といえます。
進捗を測る指標を、当社は一つに絞っております。ベースロード比率、つまりサービス売上のうち期初の時点で読める分の割合です。電力におけるベースロードとピークの関係になぞらえた呼び方です。
この指標の精度は、分子の定義で決まります。
| 分子に入れる | 保守契約の定額収入。契約に基づく定期交換・定期点検。消耗品の定期供給。顧客と合意済みで、実施時期が翌期に確定している計画工事。 |
|---|---|
| 分子に入れない | 突発修理。スポットの部品注文。「例年これくらい出ている」という実績値。提案中で未合意の案件。 |
「毎年だいたい出ているから読める」を認めた時点で、この指標は意味を失います。読めるとは、契約か合意に裏づけられているという意味です。厳密に定義すれば当初の数字は低く出ますが、それが自社の現在地を示しています。
この数字一つで、部門の現在地も改善の度合いも測れます。経営にとっての価値は、利益率にとどまりません。翌期のサービス売上が期初に予測できるようになり、予測できる売上を持つこと自体が経営の資産となります。
利益率は、提案の量ではなく設計で決まる
提案が増えても利益が伴わない、というご相談もあります。原因は二つに絞られます。ひとつは値付けです。保守契約を定額とするか従量とするか、緊急対応の割増をどう設定するか、部品をどう値付けするかが論点となります。定額契約は収益が読める一方、想定を超える対応が発生すれば利益を圧迫し、従量にすれば収益が読めなくなります。どこまでを定額に含め、どこからを別途とするかを定める契約書の一行が、その部門の利益率を決めます。
もうひとつが、販売店・代理店との分担です。メーカーのサービスは販売店を経由することが多く、誰が顧客に会い、誰が見積を出し、粗利をどう分けるのかを定めないまま提案だけを増やせば、現場はほどなく止まります。メーカーが直接動いた時点で、販売店は「客を取られる」と受け止めます。これは感情の問題ではなく、役割と取り分が決まっていないことから生じる必然です。
この二つは、提案活動を始める前に決めておくべき事項です。活動を始めてから決めようとすれば、すでに提出した見積との整合が取れなくなります。
鍵を握るのは、技術者ではなく管理職である
ここまで仕組みについて述べてきましたが、最後は人の問題に戻ります。厚生労働省の令和6年度能力開発基本調査によれば、人材育成上の問題点の第1位は「指導する人材が不足している」で59.5%、第2位は「人材育成を行う時間がない」で47.4%でした。教える側に、人も時間も不足しています。この状態で「技術者に営業を覚えろ」と号令をかけても、現場は動きません。
より根本的な問題は別にあります。技術者が現場で異常に気づき、それを記録したとして、その情報を読んで次の一手を返せる管理職がいるかどうかです。この点が空白のまま始めると、熱心な技術者から先に離脱します。報告しても何も返らない状態が半年続けば、報告をやめるのが合理的な判断となるためです。最も現場を見ている人から離れていくことが、この失敗の最も大きな損失です。
当社が実施したトップセールス1000人調査で、「売れるようになったきっかけ」の第1位は「上司・先輩の一言」でした。研修でもマニュアルでもツールでもありません。サービス部門でも同じことが起こります。必要なのは営業研修ではなく、現場から上がった事実を読み、設備総合効率とライフサイクルコストの言葉に翻訳して、次の一手を返せる管理職です。
技術者に売り込みを教える必要はありません。話し方が巧みでなくとも、現場で見た事実にもとづく提案は、営業の売り込みよりはるかに信頼されます。整えるべきは話術ではなく、仕組みです。
自社の現在地を確かめる7つの問い
ここまでの内容を、確認できる形にまとめます。
| 1 | 客先で稼働している自社製品が何台あるか、経過年数別に即答できるか。 |
|---|---|
| 2 | その設備群に年間いくらの保守需要が発生するはずかを試算したことがあるか。自社の取り分は何%か。 |
| 3 | 提案書に設備総合効率のどこがどれだけ動くかを書いているか。「生産性向上」で止まっていないか。 |
| 4 | 延命と更新を年あたりのコストで比較した資料を出せるか。総額比較で終わっていないか。 |
| 5 | サービス売上のうち期初から読める分は何%か。その分子の定義は文章になっているか。 |
| 6 | 保守契約の定額範囲と別途の線引きが、契約書で明確か。緊急対応の割増は決まっているか。 |
| 7 | 販売店・代理店との役割分担と粗利配分が、書面で合意されているか。 |
1と2に答えられないうちは、着手すべきは提案活動ではなく棚卸しです。3から5は提案の型と指標、6と7は収益の設計にあたります。順番を飛ばせば、提案は増えても利益は増えません。
サービス部門はコストセンターではなく、最も多く顧客に会っている営業部門です。競合が立ち入れない現場へ定期的に入り、設備の状態も、修理の履歴も、部品の供給年限も把握しています。これほど有利な立ち位置は、社内のほかの部門にはありません。
その優位が収益に変わらないのは、技術者の意識によるものではありません。顧客の物差しに翻訳する型がなく、予算の構造が共有されておらず、値付けと分担が定まっていないためです。いずれも設計で解ける問題です。
新規事業でストック収益を探す前に、自社のサービス部門をご確認ください。多くの場合、必要なものはすでにそこにあります。不足しているのは、それを収益に変える仕組みです。
【出典】
(株)富士経済「設備機器の保守メンテナンスサービス市場調査」 ※設備機器40品目の国内市場。2020年2兆7,053億円、2025年2兆9,350億円見込み
厚生労働省「令和6年度 能力開発基本調査」(事業所調査) ※人材育成に関する問題点の内訳
(株)カーナープロダクト 調査研究レポート「開眼のきっかけ トップ営業1000人分析」
※設備総合効率の定義はTPM(総合的生産保全)の一般的な考え方によります。修繕費と資本的支出の区分は概略であり、個別の判定は顧客の経理部門にご確認ください。
サービス部門の営業力強化について
設置ベースの棚卸しから、提案の型づくり、中長期保全計画の共有、値付けと代理店分担の設計まで。製造業のサービス部門を対象とした営業力強化をご支援しています。自社の現在地を測りたい段階からご相談いただけます。



