値上げ交渉が通らない理由|価格転嫁54.2%時代の営業|カーナープロダクト

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価格転嫁54.2%時代の営業

値上がりした価格をレシートで確認する

本レポートについて
作成 株式会社カーナープロダクト
公開 2026年9月
構成 公的機関および民間調査機関が公表した統計データと、当社の営業コンサルティング・営業研修の現場知見にもとづく分析(参照した調査は末尾に記載)

価格交渉は9割で行われている。それでも半分しか通らない

中小企業庁が2026年6月に公表した調査によれば、直近の価格転嫁率は54.2%でした。コスト要素別に見ると、原材料費が55.7%、エネルギーコストが48.9%、そして労務費は50.0%にとどまります。一方で「価格交渉が行われた」と答えた企業の割合は90.7%にのぼります。

この2つの数字を並べると、現在起きていることが明確になります。交渉の席にはついているものの、通っているのは半分にとどまっています。

とりわけ深刻なのが労務費で、原材料費よりも通りにくい状況にあります。原材料の値上がりは請求書や仕入価格という形で「証拠」を示せますが、人件費の上昇は自社の判断に見えてしまうためです。しかし、賃上げの原資を確保できなければ、人材を採用できず、離職も進みます。価格転嫁は、いまや調達の問題ではなく人材の問題であり、経営の存続に直結しています。

ここで注目したいのは、交渉の「機会」はすでに十分にあるという事実です。9割が交渉のテーブルについている以上、残る課題は交渉の中身、すなわち営業の伝え方にあります。

「仕方がないので」と言った瞬間、値上げは値上げでしかなくなる

当社は営業研修やコンサルティングの現場で数多くの価格改定に立ち会い、確信していることがあります。値上げそのものが社会情勢によるものであっても、それを伝える営業の姿勢によって、相手の納得度と満足度は大きく異なる結果になります。

姿勢は大きく二つに分かれます。一つは「仕方がないので値上げをお願いします」という伝え方、もう一つは「値上げに見合った価値を、これからも生み続けます」という伝え方です。

前者には大きな問題があります。「仕方がない」という言葉は、自社の意思決定を他人事として説明する言い方であるためです。受け取った顧客は「この会社は自分たちで状況をコントロールできていない」と理解し、値上げを受け入れるかどうか以前に、取引先としての信頼が一段下がってしまいます。営業担当者本人は、顧客に共感を示すつもりで口にしていることが多く、それだけに気づきにくい問題です。

成績上位の営業担当者も、値上げの理由は丁寧に説明します。原価がどう動いたのか、なぜこの時期なのかを曖昧にすれば、不信を招くためです。違いはその先にあります。成績上位者は、理由だけで話を終わらせません。背景を伝えたうえで、これから何を目指すのか、その結果として新たに生まれる価値は何かを続けて話し、単なる価格の改定として終わらせないようにしています。

理由の説明は、あくまで過去の話です。そこで止まれば、顧客の手元に残るのは負担感だけになります。その先の話があって初めて、値上げは前向きな合意に変わります。

さらに踏み込む担当者もいます。会社としての対応を伝えるだけで終わらせず、自分自身が顧客の事業を理解し、貢献し続けることによって、価格改定の幅を超えるメリットを提供しようと動きます。「会社は価格を上げます。しかし私は、それ以上のものをお返しします」という姿勢です。この差は、値上げの通過率だけでなく、その後の取引の継続にも表れます。

「高いから売れない」で、思考を止めない

一方で、価格改定によって競合他社との価格差が開き、「高いから売れない」という思考回路に陥る営業担当者もいます。値引きの決裁を求める回数が増え、失注の理由が「価格」に偏っている場合は、その兆候と考えられます。

しかし、高いか安いかは主観であり、価値観の問題です。同じ金額でも、ある顧客には高すぎ、別の顧客には妥当に映ります。営業にとって重要なのは、価格を下げることではなく、「高くても購入する価値がある」と思っていただくことです。

顧客が求めているのは「安さ」ではなく「明瞭さ」

この点については、裏づけとなるデータがあります。HubSpot Japanが2026年6月に実施した、BtoB商材の選定に関与した1,573名への調査です。

この調査で、購買を検討する際に信頼できる情報源として最も多く挙がったのは「価格・追加費用・契約条件が明瞭な情報」で60.6%でした。次いで「提供会社・販売会社の担当者からの個別説明」が59.8%、「導入事例」が57.0%と続きます。

ここで留意したいのは、1位に挙がったのが「価格が安い情報」ではなく、「価格が明瞭な情報」であるという点です。顧客が求めているのは安さではなく、何にいくらかかり、追加費用は何で、契約条件はどうなっているのかが曖昧でないことです。総額がいくらになるか読めない提案は、金額の多寡以前に検討の対象から外れていきます。

当社が過去に実施した調査でも、同じ傾向が出ています。法人300社・個人300人を対象とした調査では、購入先を選ぶ決め手の1位は「商品やサービスの品質・機能、提案の内容」、2位は「企業の信頼と信用」であり、「価格」は3位でした。詳細は比較購入の時代に選ばれる営業の条件にまとめております。

この調査は2009年のものです。それから17年が経ち、市場環境も購買プロセスも大きく変わりましたが、この順番は変わっていません。価格で決まる取引は、いつの時代も全体の一部にとどまります。

値上げ局面でこそ、営業担当者の価値は上がる

同じ調査には、営業の存在価値を考えるうえで見逃せない数字があります。信頼できる情報源として「生成AIサービスやAI検索がまとめた情報」を挙げた人は37.8%で、選択肢のなかで最下位でした。これに対して「担当者からの個別説明」は59.8%です。

情報を集めるだけであれば、AIで足りる時代になりました。それだけに、担当者にしか出せないものの価値が高まっています。調べれば分かることを話す営業は不要になり、調べても分からないことを話せる営業の価値が上がったといえます。

顧客が営業に何を期待しているかも、同調査に表れています。営業・提案のプロセスに求めることとして「自社の状況に合わせた提案」が37.1%で1位、「費用対効果・ROIの説明」が30.2%で2位となっています。顧客は、一般論の商品説明ではなく、自社の事情に引き寄せた話を求めています。

加えて、購買プロセスの実態を示す数字も重要です。社内で意思決定に関わった人が5人以上いたケースは46.9%、複数の企業・サービスを比較検討したケースは80.3%、検討開始から決定までに1か月以上かかったケースは50.9%です。

つまり、目の前の担当者が納得しても、それだけでは決まりません。その担当者は、社内の4人を説得しなければなりません。値上げ局面では、この難易度がさらに上がります。「なぜ値上げを受け入れるのか」を社内で説明する役目を、顧客の担当者が負うためです。

ここに営業の仕事があります。それは値引きに応じることではなく、顧客の担当者が社内を通せるだけの材料を渡すことです。値上げ後も取引を続ける理由、切り替えた場合に発生する手間とコスト、これから提供する価値の中身を、顧客がそのまま社内で使える形にして渡します。この一手間を省くと、価格でしか勝負できない状況に近づいていきます。

経営者と営業管理職が理解しておきたい「価格弾力性」

ここまでは営業担当者について述べてまいりました。経営者と営業管理職の立場では、これに加えて、もう一段上の視点が求められます。マーケティングにおける「価格弾力性」という考え方です。

価格弾力性とは、価格が変化したときに需要がどれだけ変化するかを表す考え方です。弾力性が高い商品は、少し値上げしただけで需要が大きく減り、弾力性が低い商品は、値上げしても需要があまり減りません。日用品や汎用部品は前者に、専門性が高く代替の効かない商品やサービスは後者になりやすい傾向があります。

ここで重要なのは、弾力性は商品ごとに決まるだけでなく、顧客セグメントごとにも異なるという点です。同じ商品でも、価格に敏感な顧客層と、そうでない顧客層が混在しています。

当社は以前から、顧客には「2・6・2の法則」が当てはまると述べてまいりました。最初の2割は「安心を買う」層で、価格より実績や知名度を重視します。次の6割は品質と価格を比較して決める層で、営業力の差が最も表れます。残りの2割は価格だけで選ぶ層です。この分類は自社商品に自信を持てない営業(営業1000人調査)で詳しく扱っております。

価格改定の場面で最も避けたいのは、この違いを見ずに一律の対応をとることです。全顧客に同じ率で値上げを通知し、抵抗のあった順に値引きで対応すると、価格に敏感でない顧客にまで「交渉すれば下がる」と伝えることになります。逆に、価格だけで選ぶ2割を失うまいとして全体の利益率を下げるのも、経営判断としては本末転倒です。

経営者と営業管理職に求められるのは、どのセグメントを守り、どこは手放すかを決め、それを営業に伝えることです。そのうえで、営業担当者には次の3つをお渡しいただきたいと考えております。

1つ目は価格の根拠です。何にいくらかかっていて、なぜこの金額なのかを、営業が自分の言葉で説明できる材料を指します。2つ目は権限、すなわちどこまでなら自分の判断で決めてよいのかという範囲です。その範囲が示されていなければ、営業はすべてを持ち帰るほかなく、商談が長引きます。3つ目は撤退ラインで、この条件を下回るなら受注しないという線です。これを示さないまま「利益を出せ」と指示すれば、現場は板挟みになります。

この3つが揃っていない状態で「値引きするな」とだけ指示を出すと、現場は動けなくなります。経営の意図が現場に伝わらない構造については、営業現場と経営幹部の認識の隔たり(1000人調査)で詳しく述べております。

価格改定は、ロイヤルカスタマーを見極める機会でもある

価格改定は、多くの経営者にとって気の重い局面です。しかし見方を変えれば、自社の顧客を見極める数少ない機会でもあります。

値上げを伝えたとき、顧客の反応は分かれます。理由を聞いたうえで受け入れる顧客、条件を交渉してくる顧客、即座に他社へ切り替える顧客があり、その反応は、顧客が自社の何を評価していたのかを映し出します。価格だけで繋がっていた関係は、価格が動けば切れます。それが分かること自体が、経営にとっては情報です。

そして、この局面での対応が、今後のロイヤルカスタマーを決めていきます。「仕方がないので」と伝えた相手とは、値上げの分だけ関係が薄くなります。「これからも価値を生み続けます」と伝え、実際にそれを実行した相手とは、値上げを経てなお関係が深まります。同じ価格改定が、正反対の結果を生むことになります。

コストが上がり、価格を上げざるを得ないという状況自体を変えることはできません。しかし、この局面をどう使うかは自社で決められます。「仕方がないから値上げする」から脱却できるかどうかで、数年後の顧客構成は大きく変わると考えております。この局面を、好機に変えていただければ幸いです。

このテーマに関連するサービス

営業研修・営業セミナー
価格改定の商談を想定した実践形式の研修を設計します。「仕方がないので」から脱却し、値引きに頼らず価値を伝えるための伝え方を、自社の商材に即して実践形式で学びます。

営業戦略策定
どの顧客セグメントを守り、どこを手放すのか。価格の根拠・権限・撤退ラインを整理し、現場が動ける形の方針に落とし込みます。

営業力分析
どの商談で値引きに頼っているのかを、担当者ごとに可視化します。値引き率と失注理由から、対処すべき課題を特定します。

まずは相談する

この論考を、社内でご検討いただける資料にしました

本稿の内容をもとに、社内の会議でそのままお使いいただける資料を作成しました。「価格改定を『値上げ交渉』で終わらせないための社内検討資料」(全16ページ・PDF)です。数字は出典つきで整理し、自社の状況を確認するチェックシート10項目を収めました。

あわせて「トップセールスの育て方」「経営と営業現場の断絶」「事業承継における営業の引き継ぎ」「SFA/CRMの定着」「営業の属人化」をテーマにした資料も、同時にお受け取りいただけます。

資料の詳細を見る(無料ダウンロード)

参照した調査

中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査結果」2026年6月26日公表
https://www.meti.go.jp/press/2026/06/20260626003/20260626003.html

HubSpot Japan株式会社「日本のBtoB購買に関する意識・実態調査2026」
調査期間:2026年6月11日〜16日/対象:直近12か月以内にBtoB商材の比較・選定・稟議・承認・決裁等に関与した、従業員50名以上の企業に勤務する方/有効回答:1,573名/手法:インターネットリサーチ(実施:株式会社マクロミル)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000083.000037724.html

株式会社カーナープロダクト 調査研究レポート(2008年3月・2009年3月実施)
https://www.carner.co.jp/investigation/

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